ケモノのアヴァターラが示す複数の存在様態のうち、ドウシは最も理知的に感じられる。その踊りは精確緻密で、私たちの機械語にも似た規則性を有している。ドウシが踊りに没頭する姿に、ある研究者はこう呟いた。まるで市壁の電脳空間そのものと意思疎通を図っているようじゃないか、と。
その印象はおそらく正しい。市壁が私たちに供給する食糧や素材、燃料の量や質は、ときおり予測不能な変化を示すことがあるが、その変動はドウシの出現時期とほぼ完全に重なるのだ。この事実は不快な仮説をもたらす。私たちがその存在理由すら解明できていない電脳空間は、実は市壁の働きを変える制御機構であり、ケモノたちはその操作法を部分的に理解しているのではないだろうか──ということだ。
彼らはいつか市壁を完全に掌握し、私たちは生存の基盤を永遠に失うかもしれない。ドウシを見つめるとき、胸の奥から底知れない不安が湧き上がる。